『ぐちゃぐちゃ』

宮沢 弘

第13回 【シナリオの重層化(その2)】

さて、今回は前回に引き続き、「シナリオの重層化」について書こう。前 回は、「重層化した方が良い」ということを書いた。今回は、では実際の重層 化はどうすれば良いのかを書こう。

前回の話をまとめると、こうなる。「RPGには複数の葛藤や対立が並行して 存在している。第1には、RPGの世界観に見られる対立、第2にシナリオの基盤 となる葛藤や対立、第3には、個々のシーンで見られる対立がある。」

例えば、D&Dの場合、その世界の持つ対立は、「善対悪」というひとことに まとめられる[ガイギャックス]。このような、ゲームの基盤となる葛藤や対立 から、シナリオの基盤となる「悪玉対善玉」という基盤が出てき、そして最後 に個々のシーンに置いて、「PC対悪人」のような構図が見られることになる。

この例に沿ってシナリオを考えてみよう。まず特定のゲームが持つ葛藤や 対立としてはD&Dに習って「善対悪」を考えよう。そして、シナリオの基盤と なる対立は、ある村を襲う山賊と、その襲撃を防ぐPCという対立を考えよう。 では、なぜ山賊が村を襲うのか? 単純に「山賊は悪者だから?」 OK。とりあえ ずはそれでも良い。だが、ゲームの基盤となる対立をより明確にするにはどう したら良いだろう? その山賊はなぜ、他の村ではなくその村を襲うのだろう? 住民が言うことを聞くからとか、ほかの山賊との陣取り合戦で負けてしまった からとか、近隣の町の防御が固くなったからなどなどいくらでも考えられるだ ろう。これで、ゲームの基盤となる「善対悪」という構図がよりはっきりする。 単に悪者だからだけではなく、なぜ悪なのかという理由づけが与えられるから だ。

次に、ここのシーンを考える。ここでは深くは述べないが、各シーンにお いても様々な対立が見られるはずだ。例えば「善対悪」というわけではないが、 PC が「善」であることを確認する部分として、村からの依頼というシーンが 有るだろう。この場合、もちろん「村人対PC」というシーンの捉え方もできる。 しかしこれでは「善対悪」という構図が見えにくい。むしろ「悪玉が行なった 過去の出来事対善玉であるPCが引き起こす未来」という対立を見るべきだろう。 では、ゲームの基盤となる対立と、シナリオの基盤となる対立から、シーンの 基盤となる対立はどのように得られるだろう? ま、その辺りは各人で考えても らいたい。

さて、そのようにシナリオを重層化したとしよう。実を言うと、それだけ では不十分なのだ。それらの重層化した設定が、プレイヤーに見える形になら なければならない。シナリオに見られる対立やシーンに見られる対立の視覚化 は容易だ。だが、ゲームの持つ対立を視覚化するにはどうすれば良いのか? ま た重層化した設定についても、重層化していることを示すにはどうすれば良い のか? ゲーム中のどこかで、それをプレイヤーに示さなければならない。単 に設定しただけでは不十分なのだ。重層化されていることが示されなければ、 重層化されていること自体、気づかれないかも知れないのだ。それもできるだ けスマートに提示したい。

というわけで、今回はここまでだ。次回は、重層化していることをどうやっ てプレイヤーに提示するのかについて考えてみようと思う。そうそう、この記 事に対するご意見などは、skoba@hamal.freemail.ne.jp までお寄せいただき たい。返信するかどうかは分からないが、参考にはさせていただく。

参考資料