この話をすると、いつも言われるのが 「シナリオはその世界に密着しているから、そんな汎用的なものは作れない」 という言葉である。 もちろん、私はそんな言葉に耳を貸していないのは、 今この文を書いていることから明らかである^^;。
1997年の11月に、部屋の段ボールをひっくりかえしていたら、 [ダンジョン・シネマティーク] という本を発掘した。 この、[ダンジョン・シネマティーク] という本に、 紹介されているのは、私が考えている「汎用」の例である。
もちろん、どのような話であれ「汎用」にできるとは思っていない。 またRPGシステムにより、あるいは世界によってシナリオの向き不向きが有ることも 確かだろう。 だが、おそらく、あなたが考えている以上に「汎用」シナリオの可能性は高いのだ。
なぜ、こんなことを考え始めたかと言えば、これまた 「プロップのファンクション」が原因である。 これは、概要については[文法]を、詳細については[形態]を参照していただきたい。 ともかくロシア(および周辺部、日本のものもいくらかは入っているらしい)における 魔法昔話とプロップが分類した昔話について、 その構造を調べたところ、いずれも非常に単純かつほぼ同一(ほぼと言っている 理由については、[形態]の方を読んでいただければ分かる)の構造になっていた という話である。
もちろん、これは魔法昔話においてはそうなったという話であるが、 この考えを拡張すると(プロップ自身その可能性を考えていたし、 物語装置の話はもろにこれを想定しているのだが)、 おそらく人間の生み出しうる物語は(おそらく多くても)数百種類程度 (これはプロップの推測した数字である)の 構造に分類できるはずであるということになる。
さて、ここで問題である。 プロップのファンクションに限っても、 つまりそれは魔法物語から得られたものということになるのだが、 魔法昔話以外の物語においてもその構造が見られる。 試しに、自分の知っている映画なんかをプロップのファンクションで分析 してみると良い。 つまり、魔法昔話から得られたものではあるが、 その構造は我々が考えるいわゆるジャンルを飛び越えて 適用可能、言い換えるならば、 魔法昔話的な物語はその設定(例えば背景世界)の変更により 様々なジャンル(や世界)における物語へと変更可能ということになる。 さぁ、ここまで来れば私の言いたいことは明らかであろう。 そう、魔法昔話から得られた構造ではあっても、 それはジャンルや世界に対して汎用性を備えているということである。
もっとも、ここで忘れてはいけないのは、 プロップのファンクションというのは非常に抽象化されているという点である。 非常に抽象化されているがゆえに、汎用的であると言える可能性も有るのだ。 そこで問題になるのは、どの程度抽象化されていれば汎用性が有り、 どこまで具体化されれば汎用性が無くなるのかである。 つまり、汎用シナリオと言われてプロップのファンクションを見せられても 何の役にも立たないわけで(使い方しだいだけどね)、 実際に役に立ってもらうためには もっと具体的なものになってもらわなければ困るのである。 そこで、どこまで具体化すべきでありできるのかというバランス点を 見付けなければならない。
というところで、できれば[形態]の方を見ていただきたいのだが、 一般に流布しているプロップのファンクションよりも 非常に細かく分類されている。 分類として何が起こるのかというあたりまで書いてあるのだ。 具体的には"留守"の内容として何が起こるかまで分類されていると思って欲しい。 プロップの行なった分類は、あくまで魔法昔話での話であるが、 そこまで分類したところで魔法昔話内にかぎるならば汎用性が残っているのである。 しかし、私が考えているのはもっと広い汎用性であるから、 プロップの行なったような分類はちょいと問題が有る。
そこで考えてみると、汎用性にとって問題となるのは、 人の能力の名前(もしくはその内容)や、道具の名前(もしくはその内容)、 そして場所なのである。 それらが具体的な名前を持って現われると、 汎用性は非常に狭い範囲のみに対してのものとなってしまう。 しかし逆にそれらをうまく抽象化できれば、 人間にとってはかなり具体的なイメージを保ったまま、 非常に汎用性の高いものとなることは創造に難くない。 例えばだ、"馬"と言うか"車"と言うかによって、我々が受ける イメージはかなり違う。しかし、その機能は人や物をA点からB点に 移動させるということである。 この程度の抽象化であるならば、我々にもイメージが掴みやすいし、 またそれと共にかなり汎用性をもっているということになるだろう。 というわけで、言わば道具や場所の《機能》(もちろん、プロップのファンクションの "ファンクション"とはちょいと意味が違っている)を 掴まえられたら、私の目的を達成するのに一歩近づくのではないかと 考えているのだ。
また、それとは別にシナリオに基づいたプロップのファンクションを考える必要も 有るだろう。 今のところ私はプロップのファンクションをそのまま使っている (そのままとは言ってもかなり変っているが)。 しかし、RPGのシナリオにおいてプロップのファンクションがそのまま 適用可能とは限らない。 より良いファンクションが得られるかもしれないのだ。 その作業もやっていきたいのだが、 手間が....というわけである。 いずれは着手するつもりだが...
ところで、プロップのファンクションとは 人の《機能》のことだと思えば良い。 もっともどうもいま一つRPGのシナリオには向かないような気がしないでも ないので、これも考えなければならない。 が、とりあえずそれは後で。 ただし、プロップのファンクションからちょっと外れるが、 登場人物の役割というようなものを考えた方が良いかもしれないと 考えている。 まぁプロップのファンクションは人の《機能》と 話の構造がごっちゃになっているようなところがあるから、 そこを分離するのは良いことかもしれない。
というわけで、以後私の考えているものは 「機能」ではなく「役割」と書く事にする。
これをこのままRPGに適用しても良いのですが、 いくらか問題が有ることも事実です。 例えば「ニセ主人公」というのはRPGのシナリオにおいてはそうそう 表われるものではないでしょう。 また、魔法昔話のように助手が活躍してしまったのでは、 PCの立つ瀬がありません。 そこで、上記のリストをもとに、RPG用の人の《役割》をぐちゃぐちゃ考えている 最中なのです。
とりあえず現時点では次のように考えています。
NPC(助手に相当)
援助者
伝令
被害者
依頼者
敵対者
エキストラ
というわけで、現時点において8つの、人の《役割》を想定しています。 これはまだまだ考察途中のものであるため、この《役割》が妥当かどうかは 何とも言えません。
例えば、現代もしくは近未来を舞台にしたRPGを遊んだとしましょう。 そこには当然大きなビルディングが登場します。 さて、このビルディング、名前はビルディングですが、 その使用法はどうなっているでしょうか? あるいは、サイバー・パンクRPGを遊んだとしましょう。 いわゆるサイバー・スペースのイメージは置いておき、 その使用法はどうなっているでしょうか? これらは、言わば"ダンジョン的"とも言える役割を持っているでしょう。
なぜ、場所の《役割》が必要なのでしょうか? 正直言えば、場所の《役割》が物語を創作する上で必ずしも必要とは思いません。 かなり個人的な事柄なのですが、 現在私はあるゲームを作ろうと思っています。 そのゲームにおいて、場所の《役割》という考えに行き当たったわけです。 また、シナリオ(プロット)の自動生成という観点からも、 話のジャンルからある程度距離を置いた、 《役割》という考え方は非常に有益であると考えています。 さらに、私は以前から「原則的に、いかなるシナリオであっても、 個々のRPGシステムやそのジャンルにとらわれない、 汎用的なシナリオとして書けるのではないか」という 考えを持っています。 この考えを実際に試してみる場合、 どうしても場所についても《役割》的なものとしてとらえておく必要が有るのです。 また同様に、いわゆる小道具(アイテム)の《役割》をとらえておく必要が有るかも しれません。
もっとも、私はプロップのようなきちんとしたやりかたで 《役割》を選定(?)しているわけではないので、 その結果としてできあがる《役割》のリストが妥当なものになるかどうかは 分かりません。
とりあえず、例を挙げて考えてみます。 ここでは"家"を例にしてみます。 "家"とは言っても、これがそのまま1つの《役割》とはしたくありません。 というのも、"家"というのはその内部に様々な目的に合わせた 部屋を持っているからです。 そこで、"家"の中には次のような、 言わば目的に特化した場所が有ると言えると思います。
上記のものを、例えば町や村にある建物や場所と対応づけるとどうなるでしょうか?
で、このように、家というものの内部構造を基にして、 1つの役割リストというものを作れるわけです。 場所の役割をとりあえずこれでいくとして、現在 場所の役割は11個存在することになります。 もちろん、上に見たように、1つの役割が どのような範囲や世界であっても1つの実体(例えば広場とか、食堂とか)に 対応するわけではありません。 例えば、家というのを町のサイズで見て上記の役割を 割り当てるとしたら、どうなるでしょうか? いくつもの可能性が有ります。 1つは《台所》とする場合、1つは《寝室》とする場合、 1つは《居間》とする場合などです。 これは、シナリオ上でその家がどういう役割を果たすかによるという ことになるでしょう。
では、シナリオ内において、1つの家が複数の役割を果たす場合は どうするのか? 1つには、その主要な役割を家の役割としてしまう方法が有ります。 また、もう1つの方法として、それらの複合役割を認めるという 方法も有ります。 私としては前者がスマートだと思いますが、 後者の必要性も否定できません。 そこで、とりあえず、原則としてシナリオにおける主要役割を、 その場所の役割とするが、 それでどうしても不十分な場合には複合役割を考えるという 方向を心に止めておきたいと思います。
このように、物についても《役割》で分類できれば、 汎用的なシナリオに一歩近づくのではないかと 考え、ここではそのことについて考えてみます。
まずは、アイテムの基本的な分類を考えてみます。 とりあえず次のような7つでどうでしょうか?