スティッカー (Sticker)

スティッカーっていうのは、ある特定のRPGのみを延々と遊び続ける人のことを 言います。 日本では ソード・ワールド・スティッカー が有名でしょう。

もっともスティッキングは、必ずしも悪いことではありません。 というのも1つのシステムやワールドをより深く理解することに繋がると思うからです。 しかし、原則としてスティッキングはあまり良いことだとは思えません。 そう思う根拠を挙げていきたいと思います。

そうそう、まず説明しておかなければならないのは、 「特定のRPGが好き」であることと「スティカー」とはまったく別だということです。 「特定のRPGが好き」というのは、単なる好みの問題であって、 たぶん、RPGを遊んでいる誰でも好きなRPGの1つや2つは有るものと思います。

では、「特定のRPGが好き」であることと「スティカー」とは、 何が違うのでしょうか? まず「スティッカー」は、とにかくその特定のRPGしか遊びません。 ごく稀には、他のRPGを遊ぶことも有るでしょうが、 原則として「RPG == その人がstick しているRPG」なのです。 それに対して、「特定のRPGが好き」であるために、その特定のRPGをプレイする 回数が多いという場合ですが、 「どうせ遊ぶなら、好きなRPGのほうが良い」という考えだと思えば良いでしょう。 ですから、「RPG == その人の好きなRPG」ではありませんし (つまりRPGはもっと広いものであることを知っている)、 機会が有れば、別のRPGも積極的に試してみます。

なぜスティッカーが問題なのでしょうか? 1つは、RPGの市場そのものを小さくしてしまうということがあります。 これは、日本においては ソード・ワールドが実際に行なってしまった ことでしょう。 どういうわけかソード・ワールド・スティッカーが大量に発生してしまった ため、それ以外のRPGの発売件数や、サポートが小さなものになってしまった わけです。いや、発売件数そのものはあまり影響を受けていないかもしれませんが、 サポートの件数や質は影響を受けたものと思います。 ソード・ワールド以外のRPGにおいて、継続してサポートされたRPGが どれほど有ったでしょうか? ソード・ワールドのサポートして実績の有るSNE が作成もしくは 翻訳したものすらです。 翻訳したものであれば、原版では大量のサプリメントが有るものでさえ、 そのサプリメントのどれほどが翻訳されたでしょうか?

これは結局のところ、それらを継続してサポートしても商業的に成り立たない ためだと思います。 つまり、スティッカーが大量に発生しているRPG以外の市場を、 そのスティッカーが小さくしてしまっていると考えられるでしょう。 まぁ、これは、日本においてソード・ワールド・スティッカーのみが 大量に発生していることに起因する特殊な状況なのかもしれませんが。

また、ほかにもスティッカー以外のプレイヤーから、多くのRPGを遊ぶ機会を 剥奪するという問題も有ります。 例えばコンベンションなんかにおいて、立つ卓の半数以上がソード・ワールドだった ことが、有ります (これは今でも続いてるのかな?)。 各コンベンションにおいて、可能な卓の数はかなり制限されています。 10卓も立てば、かなり多い部類でしょう。 現在、存在するRPGは10個どころではなく、その100倍も、もしかしたら1000倍も 有ります。 そして、例えばコンベンションでセッションを行なおうとしているGMは、 そのRPGの面白さを伝えようと頑張ってシナリオを作ってきているはずです。 にもかかわらず、特定のRPGのスティッカーが大量にいると、 当然、そのスティッカーがくっついているRPG以外の卓は立ち難くなります。 まぁ、このコンベンションでも問題は、日本においてソード・ワールド・ スティッカーのみが大量に発生していることに起因する 特殊な状況なのかもしれませんが。

しかし、コンベンション以外の、通常のサークル内でのセッションに おいても同様の、もしくはもっと悪い状況が発生しえます。 原理は、コンベンションの場合と同じですね。 ただ、この場合はソード・ワールド・スティッカー以外の、 スティッカーも問題になります。 そして、コンベンションよりも身近な状況であるだけに、問題も大きいと 言えるでしょう。 例えばサークル内の半数以上が特定のRPGのスティッカーだったとしましょう。 すると、そのサークル内のスティッカーでないメンバーは、 RPGの楽しさを味わうことができなくなってしまいます。 なぜなら、そのスティッカーでないメンバーにとってのRPGとは、 サークルのメンバーの大半が張り付いているRPGのことではないからです。 少なくともそのRPGだけではないからです。 そのため、自分が遊びたいRPGを遊ぶこともできなくなってしまい、 結局はRPGから離れていってしまう可能性も否定できません。 特に、都市部以外では、RPGのサークルの数は決っして多くはないだろうし、 また新しいサークルを作ろうにもメンバーを募集する手段が非常に限られた ものになってしまうからです。

というわけで、スティッカーは、一般的には百害有って一利なしと言えます。

では、なぜスティッカーが発生するのでしょうか? これが私にはどうにも理解できないのです。 「特定のRPGを好き」というのは、理解できます。 ただ、そこからスティッカーになってしまうのか、 あるいは「特定のRPGを好き」というのとスティッカーとは まったく別の発生経路をとるのかが分からないのです。

おそらく、「特定のRPGを好き」という場合、その人は既にいくつかのRPGを 経験していたり、あるいは複数のRPGを経験しようと考えていると思われます。 その中から、特に好きなRPGに貼り付くようになるのでしょうか? それとも、例えば最初に遊んだRPGに貼り付くことでスティッカーになって しまうのでしょうか? もしも、前者だとするならば、貼り付くことを防ぐことも可能ではないかと 思いますが、後者だとするとそれはかなり難しいような気がします。

この問題を考えるにあたって、日本に大量に存在するソード・ワールド・ スティッカーを例に挙げて考えてみます。

ソード・ワールドは、国産ではまぁ初期と言って良いだろう時期に 発売されたRPGです。 当時、すでに D&Dや T&T の翻訳もありましたし、 ほかにもいくつか国産RPGが有ったと思います。 Phantasm Adventer、ナイトメア・ハンター、ルール・ザ・ワールド、 このあたりが、既に有ったんじゃなかったかなぁ? 翻訳だと、ほかにRuneQuest は出てたような気がするし、CoCも有ったはずだ。 Traveller も有ったよなぁ。これくらいかな?

しかし、RPGはそれほど広く遊ばれていたわけではありませんでした。 そこに富士見書房が Sword Worldで殴り込みをかけてきたわけです。 おそらく、日本においてはRPG初のRPG、雑誌、リプレイ、小説という、 メディアミックス型の攻勢です (漫画もあったっけ?)。 ロードス島も同じようなことやりましたし、ロードス島はアニメやComputer RPGも 出てましたね。 SW が出たのが、 1989年の3月です。ロードス島のコンパニオンが同年8月ですから、 やっぱりSWのほうが早いんだ。

リプレイや小説、そして富士見のDragon Magazineという雑誌を通して、 最初に体験したRPGがSW であるという、ライト・ファンタジー・ファンが押し 寄せてきました。 ここまでは良く有る話です。例えば SF-magazineの別冊だったかで RPGが紹介されて Traveller から RPGに入った人ってのも 聞いたことが有るし (私の勘違いが有るかもしれない)。 ただ、おそらく、その数があまりにも多すぎたことも問題の1つだったのでしょう。

そうすると、RPGに入ってくる時にすでにスティッカー的な要素が強いかどうかの 違いが有るということだろうか? つまり、『小説などで知っている「この世界で」遊びたい』という気持で RPGを始めた場合、スティッカーになる可能性が高いということになるのだろうか? これは一種の先天的(?)要因のようなものと考えられるだろう。

別のケースとしては、 スティッカーである友人からRPGに誘われた人というのは スティッカーになりやすいのだろうか? その人にとって、RPGを遊ぶということは、少なくとも当初は そのスティックしている友人の遊ぶRPGを遊ぶということになる。 では、その人は、そのRPG以外のRPGを遊びたいと思うだろうか? もしも、その人がRPGを面白いと思い始めたら、RPGについての情報も 集めはじめるだろう。そうすれば、多くのRPGが存在することに気がつくはずだ。 すると、その人にとっては、「RPG == 友人が張り付いているRPG」では なくなる。 すると、他のRPGも試してみたいと思うのが人情...と私は思うのだが。 どうなのだろうか? すると、スティッカーになりにくいと思うのだが...

さらに別のケースとしては、 既にRPGを遊んでいたが、「あまりに魅力的なRPGにであってしまった」と 感じてしまい、そのRPGのとりこになってしまうってのも有るかもしれない。 んー、これは有りそうだなぁ。 これだと前の2つも一緒に考えられそうだし。

あるいは、友人から指摘されたことなんですが、「新しいRPGに対する恐怖」 ってものあるかもしれません。 つまり、新たに触れる世界やシステムにおいては、その人は初心者ということに なりますよね。 すると、これまでスティックしていたRPGにおいては熟練者だったにも関わらず、 初心者になってしまう。 この、一種の立場の交代が恐ろしいのかもしれません。

で、おそらく、この2つがスティックの理由の大きま部分を占めるとは思います。 が、それに対して便利な理由づけも存在しています。 一言で言えば「楽しむために余計な苦労はしたくない」ってやつです。

つまり、新しいRPGを遊ぶためには、新しい世界や新しいシステムを 理解しなければならないわけです。 そんな苦労をしなくても、知っているRPGを遊び続けるほうが楽ってわけです。 あ、あなた、笑ってますね? あなたも「いるわけねぇ」とか言ってますね。 こういう人が本当にいるんですってば!

でもね、レーティングってのを 私が言い始めてます。 それを説明したとき、スティッカー達も(もちろん、「楽しむために余計な 苦労はしたくない」と私に言った人も)、興味を持ってくれたんです。 これはどういうことでしょうか?

このことから分かるのは、スティックしている人は (いや、「人も」のほうが 正確かな)、自分の技量を計りたいと思っている。 そしておそらくは、これは人間の普遍的な欲求らしいのですが、 自分が他人よりも優れていることを何らかの方法で確認したいというためなの でしょう。 そして、他人よりも優れていると何らかの方法で評価されるためには 「余計な苦労」をしても構わないと思っているのかもしれません。

ちなみにレーティングでは、 そのような心理も逆手に取って、自分のプレイを振り返るように しようと考えているんですが、その意味では「つかみはOK」的な反応だったわけです。 でも、なんだか釈然としないものが気持のなかに残りましたが...

その釈然としない気持がなんだったのか、最近分かったような気がするのです。 まぁ、それがこの文を書いている理由でも有るのですが。 いくつか仮定が入ります。

さて、この仮定の上でレーティングを広く始動したとしましょう。 すると、スティッカー達は自分がいかに熟練者であるのかを しめす客観的な指標が手に入ったと思い込んでしまうのではないでしょうか? そして、その指標を守るため、ますます強く張り付いたりはしないでしょうか?

これはまずい....のですが... 何とかスティッカーを特定のRPGから引き剥すような方策は無いものでしょうか? できればレーティング試案に取り込めるような形で...