#. 物語と情報 (登場人物、場所、アイテム、情報)

#.#. はじめに

ここでは、情報について考えたいと思います。

「情報」というとどういうことかをまず説明しましょう。 人間は、周囲の状況を認識し、それに基づいて行動を行ないます。 ここで認識の対象となるものは、仮にそれが物理的な物体だとしても 認識そのものは視覚、聴覚、触覚その他の、何らかの情報によって行なわれます。 また、行動も、まぁPC自身が何かをやる場合はちょっと別に考えたほうが 良いかもしれませんが、誰かの行動の様子やその結果などを1つの情報として 受けとることになります。 またPC自身の行動については、体内感覚やその行為による周囲の状況の変化という 情報に基づいて、その行動自身を認識するということになります。 まぁRPGについていえば、これらはすべてGMからPCに与えられる情報 ということになります。

逆に、もちろんプレイヤーからGMに向かう情報の流れも有るわけですが、 それはだいたいPCがどういう行動を取るかということに絞られますし、 シナリオの作成という面からは、PCの行動をシナリオ作成時に予測するという 部分を除いて、それほど大きな問題ではないので、ここでは触れません。

で、GMからPC もしくはプレイヤーへ流れる情報は、だいたい次のようなものに 分類できると思います。


#.#. 情報にもいろいろ有りまして...

まぁ情報と言ってもいろいろありまして、 描写の対象についても上記のように挙げられるわけです。 しかしそれらとは別の軸で見れば、少なくともRPGにおける情報は 大雑把に2つに分類できます。

1つは無条件 (もしくはほぼ無条件) にPC (プレイヤー)に与える情報と、 プレイヤー (PC) が明示的に求めた場合 (もしくは何らかの条件を満たした場合)にのみPCに与える情報です。

無条件に提示する情報はさらに3つに分類できるでしょう。 1つは、これまた大雑把に言えばステレオ・タイプ的な情報 (「いわゆる書斎だ」)です。 2つめは、あまりにも明らか、もしくはあまりにも異常であるために PCが気がつかないはずがない情報です。 3つめとしては、 ステレオタイプ的でもなく、またそれほど明らかでも異常でもないが、 どうしてもシナリオの内容から言って、PCに気付いてもらわないと困る情報なども 有るでしょう。 この、後者2つは、言ってしまえば物語の発端であるなどのように、 物語にとってあまりにも重要な情報であると言っても良いと思います。

ただ、場所や人物その他についての情報にはステレオタイプ的な設定や説明を 軽く補足するためのものもあり、それらは特にプレイヤーから尋ねられないかぎり 言及しないようなものも有ります。 これは、省略可能であるということであり、条件付きで提示する 情報ではないと考えます。

逆に、条件付きで提示する設定は、 シナリオ上のタスクを達成するために必要な情報と言ってしまっても良いと思います。 必要という言いかたが適切でないとしたら、 タスクを達成できるかどうかに関わる一種の謎掛けに関する情報と言えるでしょう。 場合によっては、その存在自体が謎掛けですから、 その存在を無条件に提示するわけにはいかないのは当然でしょう。

こんなことを、シナリオに登場する人物やアイテム、場所など、 上に挙げたリストに含まれるそれぞれについて考えてみれば良いでしょう。

ところで、「あらゆる情報は何らかの役割を持った上で、 つまりは必然的に、物語に登場しなければならない」と言うことには 納得していただけるでしょうか? 例えば、謎、その謎を掛ける場所や人、その存在自体に謎が有るアイテムなど、 あるいは、謎を解くヒント、それを与える人物、その人物がいる場所などなどという かたちで、それぞれ状況から適切な純粋情報や場所や人物やアイテムが有るでしょう。 大雑把に言えば、そういうことです。

逆に、タスクのクリアに関係の無い純粋情報や場所や人物やアイテムを登場させる ということは、プレイヤーによけいなブラフを掛けるようなものです。 そのブラフ自体がプレイヤーをひっかけることを目的としているのならば 話は別ですが (プレイヤーをひっかけるという目的のために現われるわけですから)、 そうでなければプレイヤーを無駄に混乱させるだけなのです。

本論の前に】の [2連鎖モデル(因果イベント列)]のところで、 『イベントの連鎖が有ると人間はそれを因果関係のある物語と とらえてしまうということかもしれません』と書きましたが、 それだけでなく、プレイヤーというのはシナリオ上に現われた情報というのは 全てタスクのクリアに関係すると想定してしまいます。 ですから、シナリオに関係しない余計な場所などを出すことは それだけでプレイヤーを混乱させることになるのです。

まぁ、プレイヤーが望んで求めた情報を与えるのは、それでプレイヤーが 混乱したとしてもプレイヤーの責任ですからGMの知ったことではありませんが。 しかし、GMみずから (それを目的とせず) むやみにプレイヤーを混乱させるのは 進められません (それを目的としていれば、いくらやっても良いというわけでは ないことは言うまでも有りませんよね)。

また、重要な純粋情報や場所やアイテムや人物は、 プレイヤーに印象づける必要もあります。 そのためには内容とともに、どのように伝える・渡すかという手段や、 そのタイミングも重要になります。 ですから、できるならば、シナリオを作成する時に、 どのような場所・アイテムについてのどのような情報を、 いつ、どこで、どのようにプレイヤーに提示するのかまでできるだけ はっきりと決めておくべきでしょう。

なお、場所や情報やアイテムの分類については 【シナリオの汎用性】の 方に少し書いてあります。まだアイディア・メモにすぎませんが。


#.#. 登場人物

さて登場人物の描写は、だいたい次のような内容になるでしょう。

さて、登場人物は何らかの役割を持った上で、つまりは必然的に、物語に 登場しなければなりません(プロップは、この役割を「機能」と呼んでいました。 [プロップのファンクション])。 ですから、その役割にそった特徴を備えているべきなのです。 その人物の性格や職業、教養、思想、衣装、言葉遣い、癖、容貌などは、 すべてその役割にふさわしくなければなりません。 これらの特徴は、その登場人物が果たす機能のステレオタイプにおのずと近くなるで しょう。

プロップのファンクションでは、その機能に注目し、 逆に外見などは無視しています。 それゆえに、プロップのファンクションは非常に一般的なものになっています。 このことと、上で書いたこと、つまり「性格等々は、登場人物が果たす ステレオタイプに近くなる」ということは矛盾しているように 思われるかもしれません。 しかし、現実問題として矛盾は起きません。 というのは、結局はここで言っている機能とプロップの言った機能とは 違うからです。いや、違うというよりも、ここで言っている機能 (役割)は プロップの言っている機能よりも小さい範囲を指しているわけです。

例えばシナリオ上でPCに何か援助を与えるNPCを考えてみましょう。 [プロップのファンクション]では、 それを援助者と呼んでいます。 しかし、実際にシナリオを作る上ではどのような援助を与えるのかを 考えなければなりません。 例えば、伝承などに関する知識を与える人物であったり、 PCと共に行動し戦力を与える人物であったりというところまで 考えなければならないわけです。 そうすると、例えば伝承などに関する知識を与える人物が 子供であるよりは老人であるほうが一般的に言ってそれらしいですし、 またPCに戦闘力を提供する人物は老婆であるよりも 筋骨隆々とした若い男性であるほうがそれらしいということになるわけです。

演劇や映画、そして何より小説などでは、物語はその背景から観客に提示され、 登場人物がどのような人物であるのかを観客に知らせる時間が有ります。 しかしRPG ではだいたいにおいて、物語の背景などからプレイヤーに提示する時間は 充分には有りません。 登場人物の口を借りて語ることはありますが、物語の背景や予兆の部分から PC達がその場にいることはまれでしょう。 演劇などのように、登場人物の描写を行える時間があれば良いのですが、 そうでないのですから、登場人物はステレオタイプに近く、 直感的にどういう人物なのかをとらえ易い方が良いのです。 もちろん、これは外見だけの問題ではなく、行動基準であるとか考えかた なども含めての話です。 例えば、筋骨隆々とした、臆病者という人も世の中にはいるでしょうが、 RPGの登場人物としては (特殊な場合を除いて)、あまり 適切では無いのです。 なぜなら、ステレオタイプから外れますし、そのための説明を プレイヤーにしている時間が無い (もしくはもったいない) からです。

また、物語の途中で、その登場人物の性格などが変わってしまうのも あまり良いことではないでしょう。 もちろん、物語中での出来事から影響を受け、性格や思想が変わることは 起こり得ます。 しかし、そのような必然も無しに、性格が突然変化してしまうのは、 プレイヤーに混乱を引き起こしかねません。 とは言え、実を言えば、理由が有っても、性格や思想が変わることはあまり やるべきことではないと思います (例外はもちろん有ります。 魔法によって多重人格のようになってしまった人を救うというようなシナリオは、 性格の変化が無ければ成立しませんから)。 なぜなら、やはりそれらの説明をプレイヤーにしている時間が無い (もしくはもったいない) からです。

これらのことをまとめて、もう少し強く言うと、 その登場人物の行動やセリフは (あるいはその底にある信念などは)、 一貫性を持ち、かつその登場人物らしくなければならないのです。 そして、おそらくはそれすらもステレオタイプに近いものであるほうが 望ましいということになるのでしょう。

もっとも、人物のセリフなどを含めた描写については (描写についての設定ではなく)、 かなりマスタリング・テクニックの要素も大きいです。 例えば、どれだけその登場人物らしい設定 (話しかたなどを含めて) が行なわれて いても、それをいかにうまくプレイヤーに提示できるかという問題が 残るわけで、その問題はマスタリング・テクニックの問題なのです。

マスタリング・テクニックのことは置いておくとして、 このような登場人物のステレオタイプ化(?)を押し進めると、 ギリシア喜劇などで行なわれていたらしい (実際にはかなり広い範囲で行なわれていたようですが)、 登場人物の固定が行なわれるようになると思います。 とは言え、厳密に固定される必要は無いわけで、 あるステレオタイプに対応する登場人物は、 常にそれらしい役割と外見、性格など持っているという程度で充分なわけですが。

では、そういう役割 (もしくはステレオタイプと言ってしまっても 同じことになるわけですが) としてどういうものが有るのかを リストアップできれば、そちらからまた物語を作るということに 関して何らかの接近ができるかもしれません。 なぜなら、結局は物語は登場人物が動かしていくからです。 また、そのステレオタイプというか役割 ([プロップのファンクション]とも もちろん関係しますが)とユングの言う元型というのも なんか関係を得られるのではないかと思います。 これについては 【シナリオにおける物語性とは?】や、 【シナリオの汎用性】の 方に少し書いてあります。 まだアイディア・メモにすぎませんが。

さて、RPGのマスタリングについての文章には、 「NPCは生き生きと、印象に残るように」などと書いてあることも有ります。 すると、ここで言っている「NPCはステレオタイプに忠実に」ということは 矛盾するように感じるかもしれません。 しかし、マスタリング・テクニックにおいて生き生きと表現するということと、 シナリオ上においてステレオタイプを使うということはまったく別のことである ことに注意してください。 つまり、設定としては「いわゆる冒険者の剣士風の男だ」という程度の設定でも 構わないわけですが (この一言でプレイヤーも、大雑把にその登場人物の 様子が把握できるわけです)、しかしその登場人物の行動の様子や 話しかたや話す内容などは、「いわゆる冒険者の剣士風の男の言うようなことだ」 とか「いわゆる冒険者の剣士風の男のやりそうなことをやった」など という説明ではプレイヤーはその登場人物が何を言ったのか、 何をやったのかは分かりません (もっとも、これらの描写も、補足的な描写として 行なうぶんには充分に情報を伝えると思いますが。 「そう言った、男の口ぶりは、まさしく冒険者の剣士風の男の話しかただった」 とかね)。 そして、「生き生きと云々」というのは、後者のようなことがらについて 言われていることなのです。


#.#. 場所

場所について行なわれる描写は、だいたい次のような内容を持つものと 思います。

まとめて言ってしまえば、『上記のものの総合的印象』を伝えるために、 上記のような情報をプレイヤーに伝えるわけです。 これらは、PCに (もしくは プレイヤーに)、彼らが (彼らのPC) が どのような場所にいるのかを伝えます。 場合によっては、その情報から、その場所で可能な行動、不可能な行動を プレイヤーは判断します。 例えば、狭い密室で爆発を起こすのはPCにとって自殺行為にしかならない というような場合ですね。

さて、とは言うものの、これらを1つづつきっちりと説明するのは 時間も手間もかかるのはもちろんですが、それらの情報を、 事前に用意しておかなければならないGMの労力も馬鹿になりません。 何しろ一般には1シナリオには数ヶ所の場所が現われるからです。

そこで、一般にどういう方法が取られているかというと、 言わばステレオ・タイプ的な説明を行なうわけです。 そして、本当に必要な情報については、それに加えて 用意しておくことになります。

場所についても、結局は前の節での記述と基本的に同じ ことです。あるイベントが、なぜそこで起こるのか、 その場所はどういう場所なのか (見た目や、あるいは登場人物との関連、 あるいは過去との因縁など) など、明らかなもしくは了解可能な理由がなければ むやみにシナリオに登場させるべきではないでしょう。


#.#. アイテム

さてアイテムの描写は、だいたい次のような内容になるでしょう。

アイテムについては特に言うことは有りません。 登場人物や場所の場合と同様と言えるでしょう。 ただ、おそらく場所や登場人物と違うのは、アイテムはそれ自体に 意味が有る場合が有るということです 。 例えば、あるタスクを達成するためには、あるアイテムを持ってさえ いれば良く、例えばその使いかたすらPCは知らなくて良い場合も有るということです。 あぁ、でも場所でも、そこに行きさえすれば良いってのも有るだろうし、 登場人物でも、連れていさえすれば良いってのが有るか....だったら 全然変わらないなぁ。


#.#.#. 純粋情報

純粋情報とは言っても、厳密に情報だけがPCに与えられるはずが有りません。 つまり情報にはそれを伝える媒体が必要だからです。 人の話であるとか、本に書かれているとかですね。 だから、極端に言ってしまえば、これまで言ってきた登場人物や 場所やアイテムについての描写というのは全て 純粋情報の媒体の描写にすぎないと言ってしまっても.... いや、そう言っちゃうと言いすぎだなぁ...

で、純粋情報はもろに、それが何のために、いつ、どこでPCに提示されるのかが 重要になります。 例えば、登場人物は、その人が非常に重要になるはるか以前から登場していて 構わないわけです (もっとも、ずっと以前から何らかのかたちで登場もしくは説明さえていないと 困るわけですけどね)。 あるいは、重要な純粋情報が記載されている本なども同様ですね。 まぁ特に人間の場合、唐突にPCの前にやってきて、何かをバラバラとしゃべって そのままどこかに消えてしまうというのは、やっぱり無理が有りますよね。 しかし、純粋情報は、早々とその情報が提示されてしまうのは ちょっと問題が有りますよね (シナリオによりますけどね。 色々な情報の断片を与えていくようなシナリオだと、 情報の断片はどんどんと早々と与えられていないと困るわけですが)。

ところで、純粋情報というのは、言ってしまえば、シナリオのタスクとなる 謎を解くためのヒントもしくは回答ということになると思います。 だからこそ、適切な人があるいはアイテムによって、適切な場所で、 適切な時に_提示されなければならないのだと思います。

で、おそらくは、このことから逆に登場人物や場所やアイテムも、 情報の媒体として、適切な場所、適切な時に現われなければならないと 言えると思います。

例えば、殺人犯を見付ける場合、真犯人の動機などという情報は あまり早い時期にPCに与えるわけには行きません。 シナリオの冒頭で与えてしまえば、PCには真犯人の目星が付くどころか 確定してしまうでしょうから (えーと、とは言え、その条件に合致する登場人物が複数いるような場合は ちょっと話が別になりますけどね)。

で、純粋情報の内容ですが、これはちょっと分類してみると、 恐らく次のようになると思います。

多分こんな感じになると思うんですけどね。 で、このうち、『登場人物(組織)の目的や行動の理由(原因)』と 『事件の背景』は、もしかしたらかなり重なる部分が有るかもしれません。 また、これらは 【劇的な状況】の [ ドラマティックなシチュエーション36の分類]が かなり対応するかもしれません。


#.#. 意外性

意外性については 【劇的な状況】の [意外性]でも触れてますが、 ちょっと違う視点からも触れてみましょう。

登場人物・場所・アイテム・情報のいずれについても、 意外性というのもかなり重要かなと思います。 もっとも、非常に重要もしくは物語の中心となるものについてはですが。

上のほうでは、「ステレオ・タイプに従って云々」と言ってきましたが、 重要なものを印象付けるために、わざとそこから外れるというのも 有効な方法だと思うからです。

例えば、その外見と機能があまりにもかけ離れているアイテムがPCの 周囲にあふれていると、 結局はプレイヤーを混乱させるだけですが、 中心となるものについては意外性から、プレイヤーに印象付けることも 可能だと思います。 具体的な例としては、「世界を救う戦士」と言われていたのが、会ってみると まだ子供だったりとかですね。 ただ、これはあまりやりすぎるのはまずいと思います。 なにせプレイヤーが慣れて、意外なことを意外と思わなくなることすら有りますから。 あるいは、逆に何に対しても疑心暗鬼になってしまい、 プレイヤーを混乱させるだけになってしまうかもしれません。


私家版 Advanced!!】 【物語の作りかたを考える
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