#. 劇的な状況

#.#. ドラマティックなシチュエーション36の分類

物語のパターンについてはだいたい話し終わりました。 しかし、RPG の物語はやはり娯楽なのですから、その筋立てが良いだけではなく、 やはりどこか劇的な要素が欲しいですね。 あるいは、劇的な要素が無ければ、物語としても面白いものでは無いとも 言えるでしょうが。 そこで、この章では、物語における劇的効果の演出について考えてみましょう。

さて、物語を劇的なものにする方法としては、第1に劇的な状況を用いる方法が 有ります。 まずは、そんな劇的な状況をまとめたものを見てみましょう。

参考文献 [シナリオハンドブック] には、 ジョルジュ・ポンティ(ポルティという記述も有り、私にはどちらが正しいのか 分かりません)という人がまとめた 「ドラマティックなシチュエーション36の分類」というものが紹介されています。 まずはそれを見てみましょう

  1. 哀願
  2. 救助
  3. 復讐
  4. 近親者の復讐
  5. 逃走
  6. 苦難
  7. 残酷な、または不幸な渦に巻き込まれる
  8. 反抗
  9. 戦い
  10. 誘惑
  11. 不審な人物、あるいは問題
  12. 目標への努力
  13. 近親の憎悪
  14. 近親間の争い
  15. 姦通から生じた惨劇
  16. 精神錯乱
  17. 運命的な手ぬかり
  18. 知らずに犯す愛欲の罪
  19. 知らずに犯す近親の殺傷
  20. 理想のための自己犠牲
  21. 近親者のための自己犠牲
  22. 情熱のための犠牲
  23. 愛するものを犠牲にしてしまう
  24. 三角関係
  25. 姦通
  26. 不倫な恋愛関係
  27. 愛する者の不名誉の発見
  28. 愛人との間に横たわる障害
  29. 敵を愛する場合
  30. 大望
  31. 神に背く争い
  32. 誤った嫉妬
  33. 誤った判断
  34. 悔恨
  35. 失なわれたものの探索と発見
  36. 愛するものの喪失

確かに、一見して劇的な展開になりそうな気がします。

なお、このような劇的な状況を創るためには、なんらかの対立が必要です。 ただ、対立と言っても、さまざまなものが考えられます。 例えば、個人の心の中での葛藤も十分な対立です。 この対立については、後ほど触れます。


#.#. 小林の分類^^;

さて、36もの分類は良いのですが、ちょっと数が多すぎるように思います。 そこで、ロダーリのカードから小林のプロット^^;を得たように、 ポンティの分類から小林の分類^^;を得ていますので、次に示します。

実は、あるゲームを作るために、劇的な状況の分類をしていたのですが、 それの元が「ドラマティックなシチュエーション36の分類」であったため、 単に「ドラマティックなシチュエーション36の分類」を 個人的な感覚でまとめたり、多少付け加えたりということになっています。

  1. 哀願・嘆願

  2. 復讐、憎悪、嫉妬
    (近親者、親友、恋人、宿敵によるものであればなお劇的)

  3. 逃亡、 逃走、失踪、喪失/欠如

  4. 逆境 、苦境、苦難 およびそれらの克服もしくはそれらからの脱出
    (圧倒的な力の差を覆すなど)

  5. 反抗、反乱、革命

  6. 誘惑 、引き抜き

  7. 不審な人物、あるいは 謎、問題

  8. 精神錯乱、狂気、野望

  9. 知らずに犯す罪
    (愛ゆえの罪や、近親者の殺傷などならなお劇的)

  10. 犠牲
    (信念や愛や友情のための自己犠牲ならばなお劇的)

  11. 悲劇的な愛
    (三角関係、不倫、敵を愛した場合、 愛する者の不名誉な点に気 づくなど)

  12. 誤解、勘違い、誤った判断

  13. 運命的な手ぬかり、致命的なミス

  14. 悔恨

  15. 危機一髪 (救助/脱出)

  16. 不幸に巻き込まれる

  17. 闘い、争い

  18. 知らずにいた真実を知る

  19. 葛藤、努力、探索

  20. 神、倫理、道徳、法律、禁忌などに背く行為、 もしくはその行為を行なうことの選択
    (神云々と、自分が行なおうとしている行為との葛藤の末に、 その行為を行なうというのが、特に劇的)

  21. だまされていた、狂言、 裏切り
    (裏切りには、物も含む。ある事の役にたったが、 その直後(?)に問題を起こすなど)

  22. (啓示的な) 偶然の一致
    (「偶然」を馬鹿にすんなよ > 読者の皆さま)

  23. 出会い、再会

  24. 喪失/欠如&探索&発見
    (愛するものや近親者、もしくはそれに 由来する品物の喪失&探索&発見であればなお劇的)

    36個の分類をまとめたり、ちょっと思いついたものを加えたりして、 24個になっています。 ただ、これはまだ充分にこなれていないので、また変わると思います。 なにしろ、もっとこなれたものにしないと、役に立たないし...

    何にせよ、これらは、プロットに対しての味付けとして使えるでしょう。 あるいは、むしろこちらや、 【ストーリーの種】 から、 プロットを考えるというのも充分に有りそうです。


    #.#. 使用例

    では、この劇的な状況をいかに物語に取り込むかを考えてみましょう。 【物語のパターン】の [合わせて考えてみる]で 挙げた物語を、 [小林の分類^^;]を参考に劇的さを増してみましょう。

    まず、小林の分類^^;の中から使えそうなものを抜き出してみましょう。

    哀願、嘆願 :
    PC達への依頼が行われるときに使えそうです。

    復讐、憎悪、嫉妬:
    これも使えたらおもしろそうですね。

    逆境 、苦境、苦難 およびそれらの克服もしくはそれらからの脱出 :
    PC達が貴族Aの別荘に捕われている状態がこれにあたりますね。

    犠牲:
    小林のパターン^^;の中に犠牲という項目が有るのですから、 これもぜひ使いたいですね。

    そうすると、この4つくらいが使えそうな候補になるわけですね。 「哀願、嘆願」は、PC 達への依頼の場面で使えますね。 このときに、多少「精神錯乱」気味にするということも考えられます。 もっとも、あまりやり過ぎると、逆にしらけるかもしれませんが。

    また、「復讐、憎悪、嫉妬」ですが、どこか使えるようなところが 有るでしょうか?

    例えば、貴族Aと貴族Bが兄弟であるとしたらどうでしょう。 子供のときの事件がもとで、それ以来反目している。 正確には弟である貴族Aの方が、兄である貴族Bを憎んでいるというのは どうでしょうか? で、依頼者の恋人が手に入れた書きつけには、貴族Bをおとしいれるための計画が 書かれていたというのはどうでしょう? その計画として「反抗、反乱、革命」を取り入れられるかもしれません。 また、兄弟が反目している理由としては「誤解、勘違い、誤った判断」というのも 入れられるでしょう。 更に結末で、反目をもたらした原因に対して、兄弟それぞれの「悔恨」が入って 来るとまた良いかもしれません。

    「逆境 、苦境、苦難」は、すでに取り入れられているから良いとして、 「犠牲」を考えましょう。 小林のプロット1^^)の「最後の闘い」での「犠牲」として、 依頼者が恋人を守るために殺されてしまうというのはどうでしょうか。

    というわけで、小林の分類^^;の多くを取り入れられそうです。 ぜひ皆さん自身で、これらの状況を取り入れた結果として、 先の例がどのようなものになるかを考えてみてください。

    ただ、これらの劇的な状況をあまり組み込み過ぎると、 逆にしらけてしまうかもしれません。 クドくなりすぎるわけです。 おそらく、山場ごとに (もしくはそれに関連して) 1つの 劇的な シチュエーションを入れるというのが適度、もしくは 最大限に近いのではないでしょうか。


    #.#. どうやって劇的にするか

    ところで、物語を劇的なものにするには、ポンティの分類に挙げられるような 劇的な状況を用いればそれで良いのでしょうか? ちょっと言いかたを変えてみましょう。 劇的な状況を物語に盛り込むだけで、その物語は劇的なものになるのでしょうか? 答えはYesでもあり、またNoでもあります。 つまり、唐突に劇的な状況を提示しても、それはプレイヤーを混乱させるだけの 場合が多いのです。

    しかし、また、そのような混乱こそが劇的な状況の核心となる場合も 有るでしょう。 例えば、セッションの初頭での突然のPCへの嘆願などは、 プレイヤーにとってはいったい何が起こっているのかすら 分からないままに、これから起こる冒険を予感させ、 劇的な雰囲気を作り上げるでしょう。

    では、上記のような劇的な状況をとにかくシナリオに放り込めば それで良いのかというと、そうではありません。 例えば、セッションの初頭での突然のPCへの嘆願の場合であっても、 それが実際に劇的なものとしてプレイヤーに認識されるには、 おそらくはそれに続く部分に依存すると思うのです。

    物語というのは一つの流れです。 その流れを滞らせたり、無理な力を加えるのはあまり良いことではないと思います。 物語の流れが滞ったり、無理な力を加えるというのは物語に不自然な点が 有るということです。 そのような物語では、いかに劇的な状況を用いようとも劇的な物語にはなり 得ないのです。 それどころか、流れに無理な力が加わってしまえば、 物語そのものが危うい状況に陥ってしまうことは想像がつくでしょう。 だから、劇的な状況には必然性や、自然さというものが必要なのです。 別の言いかたをするのならば、納得のいく因果関係がそこに無ければ ならないということになるでしょう。

    つまり、劇的な状況は確かに唐突な感じがあるのも良いかもしれませんが、 それはあくまで物語の流れの中になければならないのです。 導入された劇的な状況によって、それまで続いていた物語は 一端断ち切られたように感じられる場合も有るかもしれません。 しかし、物語はその後にまたその劇的な状況を含めて 物語として収束しなければならないのです。 そうでなければ、打ち捨てられた物語の断片がそこらじゅうにちらばっている ような、まとまりの無いような物語、いやシナリオになってしまうと思います。

    さらには、劇的な状況の取り込み過ぎも考えものかもしれません。 あまりに多くの劇的状況を取り込むと、何かしつこいような、クサいような 気がするものです。 その結果として、プレイヤーはしらけてしまうのではないでしょうか。 皆さんが、そういう小説や映画を見た場合を考えてみて下さい。 こちらについては、 【RPGのシナリオと小説などとの違い】に 挙げてある、劇的効果での、いわゆるジェットコースター・ムービー的な ものに近い問題も存在するでしょう。


    #.#. 意外性

    さて、【RPGのシナリオと小説などとの違い】 の[劇的効果]では、 『終りあたりになって「実は...」なんて言って、これまでまったくその 存在を匂わせて さえいなかった事柄を唐突に明かすなんてことも許され、云々』 と書きましたが、この「実は...」ってのも使いかたによっては、 非常に強く劇的な状況を作り出します。

    ドラマティックなシチュエーション36の分類]では、

    あたりを知ってしまう場合、 [小林の分類^^;]だと というあたりとして、「実は...」というやつが組み込まれています。

    さて、言うまでもないことですが、推理小説でやられる「実は...」ってのと、 ここで私が言おうとしている、有用な「実は...」ってのは、 根本的な違いが有ります。

    推理小説のほうでの「実は...」は、読者を騙すためのものであり、 またその騙しが無ければその小説自体が成立しないという最低の「実は...」ですが、 ここで言おうとしているのは、話を盛り挙げるためのものなのです。

    つまり、劇的な効果を演出するためのものであり、 いわばそのシナリオのタスク達成を致命的に阻害するような内容であっては ならないし、またタスクの達成に重要であるにもかかわらず始めから PCにはその情報を提示しない予定であってはならないのです。

    例えば、主人公とそれにこれまで敵対していた人物がいたとしましょう。 しかし、主人公とその敵対者の双方に敵対する、一種の絶対的な悪が強力な力を持って 現われたとしましょう。 ここで、主人公はそれまでの敵対者に一時的ではあっても 協力を求めたとします。 しかし、敵対者は「おまえが何をやろうと俺には関係ない。俺の邪魔をしない限りは」 とか言って主人公の申し出を断わったとします。 主人公は落胆してしまいますが、その直後、敵対者が絶対的な悪と 何らかの取引きを行なおうとしているという情報を掴んだとします。 主人公はここで落胆どころでなく、敵対者に対して怒りを感じたとします。 しかし、さらにその直後、敵対者はその取り引きを通じで、絶対的な悪に 対して致命的な打撃を与えたとします。 つまり、「実は」、敵対者もその絶対的な悪は許せなかったわけですが、 主人公とはやりかたが違ったため、主人公と協力することはできなかったわけです。

    もっとも、この例に挙げた「実は...」だと、RPGの場合ではPCが何もできないので (あるいは一種のピエロになってしまうかもしれないので)、 ちょいと使いにくいということもあるかもしれませんが...

    この例でも分かるかもしれませんが、この例では、 PCに対して、「実は...」に関する情報がかならずしも隠されていません。 というのも1つには、「実は...」の主体となる敵対者とPC達は この例の中でさえしばしば交流しているからです。 また、それが可能かどうかはマスター次第ですが、 PC達が敵対者の考えに接近することが可能だからです。

    ともかく推理小説などで使われる最低の「実は...」とは別の、 良い「実は...」ってのも有り、その区別をはっきりと行なった上でならば、 良い「実は...」はRPGにおいてもどんどん使うべきものであると言えるでしょう。


    #.#. 並行ストーリー (と対立)

    さて、劇的な状況を取り入れる以外にも、物語を劇的なものにする方法が 有ります。 物語の流れからして劇的な演出をねらうのです。 その方法の1つが、 物語の分岐なのです。 分岐といっても、シナリオ中に設ける条件分岐とは異なり、 物語の流れそのものが複数に、そして並行して流れるような分岐を 考えています。 私はこの物語の分岐を並行ストーリーと呼んでいます。 つまり、ある時点で物語の流れが複数に分岐し、そしてすべての分岐に共通する テーマや状況の元で再び流れを合流させるのです。

    小説や映画などでは、物語の分岐においては主人公達が複数のグループに分かれ、 それぞれに目的を果たして行きます。 しかりRPGにおいては、何もPC達を分散させる必要は必ずしもありません。 そもそも現実的な問題として、頻繁に、あるいは多数のグループにPCを 分散させることはGMの負担を非常に大きくしてしまうからです。 PC達を分散させなくとも、例えば、PC達と、PC達に敵対する者達という 2つの流れがすぐに思い付くでしょう。 この流れは所々で交差しつつ、最後には対決という形で合流するのです。

    もっとも、RPGではPCの周囲しか描写できないという問題も有ります。 ですから、 PCに敵対する者の次の行動を予感させる何かをPCの前に 提示するというのは重要な事柄だと思うのです。 つまり、実際に物語を分岐させずとも、 並行して別の物語が流れていることをプレイヤーに感じさせるだけでも、 並行ストーリーの効果は有るのです。

    先に述べた、ポンティの [ドラマティックなシチュエーション36の分類]は、 前提として何者かの対立が必要でした。 その対立をより効果的に演出するのが、この並行ストーリーと言えるかもしれません。 もちろん、並行ストーリーは、対立を演出するためだけのものではありませんが。

    この並行ストーリーは、物語を劇的なものにする方法としては非常に メジャーなものです。 皆さんもテレビドラマや映画を見たり、小説を読むときにはちょっと 注意をしてください。 予想以上に多くの物語がこの方法を取っていることに気づかれるでしょう。

    RPGにもともと含まれる対立については 【本論の前に】の [対立]の節のほうで 書いていますのでそちらも参照してください。 また、 【ストーリーの種】のほうも参照してもらうと 良いかもしれません。 あるいはいかに劇的な状況を作り出すか、 またいかに緊張を作り出すかという点にも関連しています。 また、【シナリオの中心となる事件】の [小林のイベント・リスト^^;]で 挙げたリストAとリストBは、 [2連鎖モデル(因果イベント列)]で述べる 初期2連鎖モデルの前半と後半の間に見られる対立を挙げているという見方も 可能でしょう。

    では、先に挙げた[小林のプロット2 ^^;] とそれぞれのシーンというか 小林のプロット2^^;内の項目における対立とを対比させながら見てみましょう。 なお、以下では、対立とか葛藤とか緊張という言葉を対立という一言で 書いています。

    背景・予兆 <-> 既に存在している対立の顕在化や、新たな対立の発生
    発端 <-> 対立による歪みが誰の目にも明らかになる。PCが関わり始める
    事件・試練 <-> 対立による事件が発生、対立による緊張などが これまでの最高点に達っする。 おそらくは、対立の象徴的な事件
    援助者 <-> 対立の解消のために苦悩し、ヒントが得られる
    闘い <-> 対立に関与する両者の対峠
    目的の達成・帰還・退避 <-> 対立の解決あるいは緩和

    えーと、だからどうしたと言われても困るのですが、 とりあえず、こういう考え方もできるということです。

    あと、この考え方では対立なり緊張なり葛藤なり、いわば比較対象なり勢力が 2つ (以上) 存在することになります。これに対して [プロップのファンクション]や、 [ロダーリのカード] においては、 初期に「欠如」というものが含まれます。 欠如と対立や葛藤とはどうも1つの概念にまとめることは難しいように考えられるかも しれません。 しかし、実際には同じ種類と考えてもさしつかえ無いと思われます。 つまり、欠如を欠如として認識するためには、欠如していない状況というものを 知らなければなりません。 つまり、この場合「欠如している状況、もしくは欠如がもたらす状況」 Vs. 「欠如していない状況、もしくは欠如していないことがもたらす状況」という 対立なり葛藤なり緊張が有ると、考えられるのです。


    私家版 Advanced!!】 【物語の作りかたを考える
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