#. シナリオ作成の手順、手法

#.#. はじめに

さて、【物語のパターン】のほうで触れたのは、 物語というか場面というかの進展のパターンでした。 それ自体、シナリオを作るうえで充分に役に立ちますし、 [プロップのファンクション]や [ロダーリのカード]、 そしてついでに言えば [小林のプロット1^^;]は、 その最初の部分から順番に考えていく方法でも 確かに物語を作れます。 しかしこれまで、技術的な話には触れていませんでした。 そこで、ここではシナリオ作成の技術的な話に触れてみたいと思います。

まず【物語のとっかかり】で述べたような、 キー、テーマ、モチーフから物語の創作が始まると仮定します。 もちろん、例えばキーも、テーマも、モチーフも決まっていなくとも、 【物語のパターン】のほうで触れたような パターンに沿って物語を作って行くうちに、 しだいにそれらが固まってくるということも充分に有りえます。 その場合、言ってしまえばパターンに従って考えていけばすみます。 まぁ、いわばこれはボトム・アップな物語の作りかたと言えるでしょう。 実際、プロットの展開に困ったときには、パターンを眺めてみるとか、あるいは 【シナリオの中心となる事件】の章で述べた [小林のイベント・リスト]を見るのも 役にたつと思います。 いずれにせよ、こちらについてはおそらくあまりこういう作りかたをする人も いないと思いますし、 またボトム・アップで作る場合でもパターンを追いながら考えていけば 何とかなるのではないかと考えられますので、それほど大きな問題は 無いでしょう。

しかし、【物語のとっかかり】では、 キー、テーマ、モチーフから物語を作ると言ったままで、 具体的にその方法については述べていませんでした。 そこで、ここではキー、テーマ、モチーフからどうやって物語を作るのかに ついて考えてみます。


#.#. 2連鎖モデル(因果イベント列)

ちょいと【本論の前に】の [ 2連鎖モデル(因果イベント列)] のところを思い出してください。 で、この2連鎖モデルのそれぞれのイベントは、だいたい1文程度で 書くことができるようなものだと思ってください。 もっと言ってしまえば、1文ではなく1述語とも言うことが可能かとは思いますが、 そこまで行ってしまうと単純化あるいは抽象化が行きすぎていると思うので (つまり、誰がとか何がとかの情報がまったく抜け落ちてしまいますから)、 だいたい1イベントは1文程度の記述と考えます。 つまり2連鎖モデルとは2文 (程度) からなる、物語の記述だと言えるでしょう。 この、物語の原型となる2文程度からなる2連鎖モデルを、初期2連鎖モデルと 呼びます。

(初期)2連鎖モデルとシナリオの作りかたの関係について言うなら、 【シナリオの中心となる事件】の [小林のイベント・リスト]で述べた リストAが2連鎖モデルの前半になり、 リストBが2連鎖モデルの後半になると言えるでしょう。 例えば、「何かが盗まれて、その物を取り戻す」というような例です。

さて、まずはテーマやモチーフと2連鎖モデルとの関連についてです。 テーマは物語の底辺に流れるBGMのようなものであり、 モチーフは話の題材というようなものだと 【物語のとっかかり】で述べました。 ですから、テーマもモチーフも物語全体を通して表現される ものと言えます。 しかし、まずテーマはモチーフを通してプレイヤーに伝えられます。 そしてまたそのテーマをプレイヤーに伝えるためには、 なにかテーマを象徴するようなイベントが必要になります。 モチーフは、そのイベントが成り立つ背景や前提になります。 つまり、「愛」というテーマを、「イルカと人間との交流」という モチーフで描くという場合、 「愛」というテーマを伝えるためのイベントは、どうしても 「イルカと人間との交流」というモチーフに基づく (もしくはその流れのなかにある)イベントで プレイヤーに伝えなければならないわけです。 というわけで、これは結局あるイベント、つまりは 2連鎖モデルを具体的に展開していった時のイベント (おそらくはクライマックス) になるわけです。

ではキーと2連鎖モデルはどのように関係するかというと、 特にキーの情景 / イベントの場合なのですが、それは おそらくは2連鎖モデルを具体的に展開していった時の情景やイベント (おそらくはクライマックス)ということになると思います。 キーの小道具、登場人物の場合も、結局はその小道具や登場人物を巡るおおまかな イベントや情景を思い描くことで、結局は情景 / イベントの場合と同じことに なると思います。あるいは、そこから初期2連鎖モデル (の少なくとも片割れ)に 辿りつくことでしょう。

ということで、結局はキー、テーマ、モチーフが少なくとも2連鎖モデルの 一部に関連しているということで、おそらくは2連鎖モデルの残りのどちらか 1つのイベントを考えれば2連鎖モデルが得られるということになります。 残りの1つのイベントを考えるのは、まぁそれほど難しいことでは無いと思います。 思い描いているキー、テーマ、モチーフによって若干の制約は有るかもしれませんが、 【シナリオの中心となる事件】の [小林のイベント・リスト]で述べた リストAとリストBを眺めていただければ、ヒントになるでしょう。 あるいは【物語のパターン】に上げられている パターンを眺めてみるのも良いでしょう。

というわけで、シナリオのとっかかりとなるキー、テーマ、モチーフから 初期段階の2連鎖モデル、つまり2つのイベントの連鎖が得られたとして、 そこからどうやって物語を具体化していくかが、 具体的なシナリオ作成についての問題となります。

これも言ってしまえば、それぞれの2つのイベントのそれぞれを、 更に2連鎖モデルで展開していけば良いということになります。 先に挙げた「何かが盗まれて、その物を取り戻す」という例で言えば、 《『「何かが盗まれて」、「PCにその奪回が依頼される」』、 『「PCはその物が隠されている所に潜入し」、「その物を奪回する」』》 というように、2連鎖モデルが2つ繋がった形などに 展開、具体化、詳細化を繰り返していくということになります。 【この際、 物語のパターン】に挙げられているパターン ( [プロップのファンクション]、 [ロダーリのカード]、 [小林のプロット1^^;)] や、 あるいは 【シナリオの中心となる事件】の [小林のイベント・リスト]で述べた リストAとリストBが参考になるでしょう。 つまり、それらが、どういうイベントを付け加えていけば良いのか、もしくは どういうイベントに展開していけば良いのかについての 示唆を与えてくれるものと思います。

また、展開の方法としては、おおまかに言って、

が、考えられます。

ここで、左再帰の深さ優先の展開は、言ってしまえば、 先に言ったようなパターンに沿って物語を作る場合と だいたい同じような感じになります。 違いが有るとすれば、左再帰の深さ優先の展開であれば その物語の全体的なイメージをとりあえず持っていると思われる点です。 つまり少なくとも結末について、もしくはクライマックスの情景やイベントに ついては何となくではあってもイメージを持っているというところでしょう。 少なくとも2連鎖モデルは頭の中に有るわけです。

別の言いかたをするなら、左再帰にせよ右再帰にせよ、あるいは幅優先にせよ、 初期2連鎖モデルから出発する場合であれば、何となくではあっても物語の 全体的なイメージを持っているわけです。 この点が、単にパターンに沿って物語を作っていくのは異なる点、 それも根本的な違いとなるということでしょう。

で、それらの間の多少の違いを考えてみると、 左再帰深さ優先の場合、先にイベントを決めて行って最後にクライマックスを決める という傾向が考えられます。 例えば推理小説で考えれば、先にネタを置いて行きながら最後の 謎あるいは謎解きを考えるという感じになります。 それに対して右再帰の深さ優先の場合であれば、 先に結末とネタバラシを考えておいて、 そのためにはどういうふうにネタをバラまいていくかを考えて行くという 傾向が有ると思います。 1段づつ同時に展開していくものだと、 ネタも、そのバラまきかたも同時に考えていくという感じになるでしょう。

では、最終的にどこまで展開すれば良いのかということになりますが、 おそらくは【物語のパターン】で述べた パターン ( [プロップのファンクション]、 [ロダーリのカード]、 [小林のパターン1^^;])の それぞれの項目について1文から数文程度の記述が なされる程度にまで展開すれば良いと思います。 なお、この「1文から数文」というのはイベント (あるいはシーンと呼んでも 良いと思いますが) の内容の記述についての話です。 そのイベント (あるいはシーン) の行なわれる場所についての描写や、 そこに登場する人物や小道具などについての描写は別です。

さて、ここでは2連鎖モデルを考えましたが、 もしかしたら「何が起こって、何かをして、その結果どうなった」という 3連鎖モデルを考えたほうが考えやすい場合や人も有るものと思います。 そのような場合は、そちらの3連鎖モデルを使ったほうが良いでしょう。 具体的な使いかたは結局は2連鎖モデルと同じです。

この他に考えることと言えば、小道具、 登場人物の描写、登場人物の行動、場所の描写、PCに与えられる情報などが有ります。 これらについては、かなりの部分後ろ向きの推論、 つまり「あるイベントが成り立つためには、どういう前提条件が必要か」を 考えることで、必要な設定は行なえるはずです。


私家版 Advanced!!】 【物語の作りかたを考える
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